ザクセンの栄華を語る水上の館
賓客を迎える部屋は200に及び、大小合わせて7つの大広間を備える。ドレスデン方面から馬車に乗って北側の高台の上まで来ると、城の 正面に続く長いまっすぐな並木道に出る。それを通って城の正面で堀を渡り 、ゆるやかな坂を上がると一段高くな った 広いテラスがある。
城の入り口に段差はないので、そのまま馬車を城内に乗り入れて建物を通り抜 けることができる。
建物内では車寄せでいったん止まり、従者たちに迎えられて馬車を下り、建物内では車寄せで階段を1階上に上がるとそこは”bel e’tage”。
中国や日本から来た貴重な陶磁器が並び、豪華な家具や鹿の角の壁飾りをしつらえた大小の広間では各地の王侯貴族を招いて贅を尽くした華やかな宴が開かれている。
パーティの来客は時には1,000人にも及び、昼間は周辺の森に出かけて鹿や鴨の狩に興じ、夜は戸外で打ち上げられる花火を見ながら今日の獲物の料理とワインで話題がはずむ。次の日は湖に船を浮かべて鴨猟に興じる。あるいは、城内ではイタリアから招いた歌劇団の名演を楽しむこともできる。尽きない楽しみが数日にわたって続くこともあった。その間、城に続く並木道は賓客が乗った華麗な馬車の往来でにぎあう。モーリッツブルク城はそんなお城であった。
歴 史
最初の城はザクセン大公モーリッツが狩猟用に1542年から1546年にかけて建造させた。
城の北側一帯は “Friedewald”と呼ばれる森で、それより前の1500年頃から沼地を整備して40ほどの池が作られ、ヴェティン家の狩猟用地となっていた。城は池に挟まれた土地の4隅に円柱型の塔を建て、それを防護壁でつなぎ、中央に母屋を建てたものであった。
その後、たびたび増改築が行なわれ、1572年には礼拝堂が設けられた。
しかし、この城を当初のルネッサンス様式から現在あるバロック様式に大幅な手を加えたのはやはりアウグスト強大候であった。アウグスト強大候は1703年増改築を計画するに際して自ら城の設計図を描くほどの熱心さであったが、最終的にはやはり宮廷建築士で、ツビンガー宮を設計したペッペルマンやルンゲローネなど当時の名工たちが1722年から27年にかけて総がかりで造り上げた。4隅に塔のある防護壁に母屋が囲まれた形であったものを塔と壁そして母屋を一体化した大きな建物にし、できるだけ左右対称の形になるよう、礼拝堂(向かって左側)の反対側には大きなダイニングルームも付け加えられた。
城は湖の中に建てられているように見えるが、この湖は城の周囲を掘り下げて造られた人工の池で、1730年に造られたものである。
建物西側の礼拝堂
城の中でも最も美しいといわれる礼拝堂は1661年から1672年にかけて選帝候ヨハン・ゲオルク II世が造らせたもので、アウグスト強大候による改築の際もほとんどそのままに残された。礼拝堂は白と金で彩られており、気高く、かつ、落ち着いた印象を与える。
贅を尽くした内装
内装を施したのもやはり当時を代表する工芸師たちであった。
4つある大広間を飾るのは、皮革製の壁紙、豪華な家具、日本や中国そしてマイセンの陶磁器などであるが、中でも大型の鹿の角のコレクションはヨーロッパでも有数のものとされる。
車寄せの右側の階段を上がるとその上の階まで吹き抜けになった大きなダイニングルームがあり、壁には飾られているの赤鹿の角。中でも有名なのはいわゆる「Moritzburger 24-Ender(24本の枝のある角)」と呼ばれるもので、赤鹿の角としては世界最大といわれる。
Monstroesensaal(怪物の広間)の壁紙には皮革が用いられており、狩猟の女神ダイアナの物語に出てくるシーンがいくつか描かれている。入り口の上に飾られている鹿の角は66本の枝(実際には27本)のある見事な角。ブランデンブルク選帝候フリートリヒIII世が1696年アウグスト強大候に贈ったものである。
その他、「石の間(Steinsaal)」にはすでに絶滅した大鹿(Riesenhirsch)の角が飾られている。
その後
城はアウグスト強大候の死後の1737年に最終的に現在の形で完成したが、18世紀の後半以降は啓蒙主義や市民革命が進展するに伴って次第に使用されなくなっていった。
1933年から1945年まではザクセン皇太子エルンスト・ハインリヒが住み、維持管理に努めていた。1945年の終戦時の混乱で荒らされることもあったが、その後の土地改革で旧東ドイツ政府によって国有化され、1947年にはバロック博物館が設けられた。博物館では18世紀のイタリア、フランス、ドイツの画家による絵画、マイセン、日本、中国の陶磁器、家具などのコレクションが整理されてきた。 1993年以降はザクセン州政府の管理下で、さらなる修復計画が立てられている。
ひとこと
ドレスデンから北北西へ15kmあまりの森の中、水に囲まれたおとぎの城のたたずまいはザクセンの美しい風景の代表として観光案内をかざることも多い。建物と周囲の庭園はほぼ左右対称で、水中に浮かぶ城の空からの眺めはすばらしいが、自ら撮った写真のみを使うことを旨とする本サイトでは上空からの写真は紹介していません。内部の撮影も一般には認められていませんので、外観だけ紹介しています。