南ドイツのUlmから
友人がドイツを旅行し、南部の中都市ウルムの大聖堂で受けた印象を語ってくれた。プロテスタントの教会で、質素な内部に「人間復活」の息吹を感じたという。
ウ ルムの大聖堂は高さが161メートルあり、教会建築としては世界一の高さを誇る壮大なゴシック建築である。戦乱が続いた中世の末期、市壁の内側にも教会が ほしいと考えた市民が資金を出し合って、1377年に建設が始まったといわれる。カトリックの教会であったが、当時、ウルムは帝国自由都市であり、大司教 や司教もいなかったため、市民の教会であった。尖塔がひとつだけなのは遠慮したためだといわれる。
しかし、ルターが宗教改革運動を始めた後の1531 年から翌年にかけて、市民が投票でプロテスタントの教会に衣替えすることを決め、それまで設置されていた祭壇などが取り外されて、内部は新教の様式に変え られた。その後1543年以降は資金不足などのため、300年にわたって建設が中断され、主塔がようやく完成したのは1890年であった。
私は人口12万人あまりのこの古い街を3回ほど訪れたことがあり、そのたびに大聖堂も見ているが、内部の様子は残念ながら、全く記憶に残っていない。
覚 えているのは、10年ほど前の土曜日の朝のことである。教会前の広場へ行ってみると、人通りはほとんどほとんどなかった。ただ、広場の片隅でおじいさんが テーブルの上に水を入れたコップを並べて、箸ほどの棒で何かの曲を奏でていた。その前には、小さな女の子が立って、コップを鳴らすおじいさんの手元を見ながら、じっと 曲に聴き入っていた。
ドイツの街は静かである。